「ブログ」カテゴリーアーカイブ

小型船舶操縦士免許を取ろう

日本でエンジン付きのヨットやボートを操縦するには「小型船舶操縦士免許」が必要です。

と言っても、皆で乗るときは、その中の誰か一人が免許を持っていれば、その人を船長にして、乗っている誰もがヨットやボートを操縦することはできます。

そうかもしれないけど、どうせヨットやボートに乗るようになったのならば、自分でも小型船舶操縦士の資格、免許を取りたいですよね。

小型船舶操縦士の免許を取るには、学科試験と実技試験があり、その両方に合格しなければなりません。

自動車の運転免許と同じように、小型船舶操縦士免許用のスクールがあり、そこへ通えば、教官がボートに一緒に同乗して、操縦のしかたを指導してくれます。教室では、座学の教官が学科試験にでる内容を教えてくれます。このスクールに通って、ちゃんと勉強をして、試験に合格すれば免許は取れます。

でも、自動車の運転免許と違い、小型船舶操縦士の免許は、もっと覚える内容は少ないです。スクールの値段も時間も節約したいのならば、まず学科試験は直接国家試験に受けに行き、合格したら、実技試験だけどこかのスクールに行って取得すれば良いのです。

国家試験でもある小型船舶操縦士免許の学科試験は、マークシート方式で回答用紙にチェックします。つまり、わからない問題でも、何かにチェックさえしておけば、正解する可能性も大いにあるのです。

小型船舶操縦士免許の学科試験勉強のコツとしては、本屋に行けば、今までに出題された学科試験の問題集が売られています。そこに書かれているすべての問題を、試験日当日までに丸暗記してしまえば良いのです。

ほとんどの学科試験問題が、信号は青になったら渡りなさい、赤信号では止まりなさいみたいな常識的な問題ばかりです。中に、ほんの少しだけ三角定規を使ったボートの航路、針路を描く問題があります。それも問題用紙で針路を描いて、答えは回答用紙のマークシートにチェックする問題です。その問題だけ最後に残して、まずは、ほかの問題をすべて丸暗記しましょう。丸暗記が終わったら、三角定規の問題にじっくり取り掛かりましょう。三角定規の問題も、はじめから丁寧にやっていけば、それほど難しいわけではありません。

ぜんぶ丸暗記し終わったら、学科試験当日、試験に臨みましょう。試験は、試験時間いっぱいぎりぎりまで考えて、どうしてもわからない問題にも、すべて必ず回答用紙のマークシートにチェックは入れてから提出しましょう。

ほら、学科試験は意外にかんたんに合格できてしまったでしょう。これで後は、実技試験にさえ合格すれば免許は取れてしまいますね。

参考までに、こちらのコーナーに全ての学科試験問題を掲載しておきます。

エンジン直った!?

斎藤智

「どうしたんですか?」
隆は、中野さんに状況を聞いた。
「いやぁ、エンジンが急に止まってしまってね。それまで何の問題も無く、横浜マリーナからこの辺り来るまでは順調に走っていたんだけどね」
「急にですよね。スポッと音がしたかと思うと、そのままキューンってエンジン停止してしまったんですよ」
いつも、もう長いこと中野さんと一緒にマリオネットに乗っている男性クルーが言った。
「とりあえずエンジンかけてみようか?」
隆は、ルリ子に聞いた。ルリ子は頷いた。
「見ててな。かけてみるから」
隆は、ルリ子にエンジンの様子を見ててもらいながら、自分はバッテリーのスイッチを確認すると、エンジンキーのスイッチを回した。
ブロロロロローン
とエンジンは回らずに、うんとも寸とも言わなかった。
「なんだ?」
隆は、エンジンスイッチを回せば、何かしらはエンジンが音をたてるかと思っていたのに、何も反応しなかったので、拍子抜けした感じで、ルリ子の後ろからエンジンを覗き込んだ。
「バッテリーか?」
「それともセルモーターかな」
ルリ子は、隆に言った。

「とりあえず、一個ずつ解決していくしかないな」
隆が言うと、ルリ子は頷いた。
バッテリーチェッカーをバッテリーに直接つなげると、バッテリーの状態をチェックした。
「バッテリーは問題なさそうですね」
バッテリーチェッカーの針が回って、バッテリーの状態は正常であることがわかった。
ルリ子は、セルモーターもチェックする。そこから先に順番にエンジンの流れをひとつずつチェックしていく。エンジンオイルが少し漏れているようだ。
「ここが動いていないよね」
ルリ子は、エンジンのオイルで汚れているところを指さして、隆に言った。
「確かに」
「それでオイルが漏れちゃって、そのオイルがセルモーターにもくっついちゃって、回らないのかもしれない」
ルリ子は、セルモーターの汚れを、持ってきたウエスでふき取った。
「ちょっと掛けてみようか」
隆に言われて、ルリ子が頷き、隆がもう一度エンジンのスイッチを回してみる。
今度は、セルモーターが回り、動く音がした。
「おお、掛かった!」
中野さんは、それを見て大喜びした。
が、決してエンジンまでは掛かったわけではなかった。
オルタネーターの先のところにある部品が壊れてしまっているようだ。
「どうする?そこの交換か?」
隆は、ルリ子に聞いた。
「うん。でも、この部品の替えなんてないよね」
ルリ子は、隆に聞いた。
隆は、中野さんのほうを振り向く。中野さんは、黙って首を横に振った。
「うちの船になんか無かったか?」
隆は、ルリ子に聞いた。
「あるけど、ラッコのエンジン部品はヤンマーだから」
ルリ子は答えた。
「ヤンマーの部品だとあわないかな?」
隆は、ルリ子に聞いた。ラッコのエンジンはヤンマー製だった。マリオネットのエンジンはボルボ製だ。
「わからない」
「どうする?やってみるしかないか」
隆とルリ子は相談している。
「ここに、ずっと海上で浮かんでいるわけにもいかないし、やってみるしかないかな?」
ルリ子が言って、
「わかった。やってみよう!」
隆は、ハッチから顔を出すと、ラッコのデッキにいる洋子を探した。
「あれ、洋子は?」
隆が麻美に聞くと、
「はい」
マリオネットの後部デッキでステアリングを握っている洋子が答えた。
「何、やっているの?」
「え、舵持っていたの」
洋子が答えた。
「美幸ちゃん、ずっと舵を持っていたから、疲れちゃったんだって」
麻美が、洋子の代わりに答えた。
「雪。パイロットハウスの床下に入っている、うちのエンジンの予備部品を取ってくれるかな」
「私にわかるかな?」
そう言いながら、雪はキャビンの中に入って、床板を開けてエンジン部品を探す。ときどき、パイロットハウスの外から茶色い箱に入っているだとか、部品の形を伝える声が聞こえてくる。
「これかな?」
その伝える声を聞きながら、一番近い部品を持って、キャビンの外に出てきた。
「それそれ」
隆に言われて、雪は部品を持ってマリオネットに乗り移り、隆に手渡した。
隆は、キャビンの中のルリ子に手渡し、ルリ子はなんとか交換できないかと苦労していた。

エンジントラブル

斎藤智

ラッコは、ぷかぷかと浮いていたマリオネットに横付けした。
「こんにちは」
隆が、マリオネットに声をかけた。
デッキには、美幸一人だけがステアリングを握っていた。
「中野さんは?」
隆は、美幸に声をかけた。
「中にいるの」
美幸の答えと同時に、マリオネットのハッチから中野が顔を出した。
「ああ、助かった」
中野の額からは、汗がいっぱい流れていた。手は、油まみれだった。
「どうしました?」
隆は、雪たちにマリオネットの船体を押さえてもらっておいて、自分はマリオネットに乗り移った。そのまま、マリオネットのキャビンに入った。
「ルリちゃん、何しているの?」
しばらくして隆が、キャビンから顔をだして、ルリ子に声をかけた。
「ルリちゃんが来てくれないと始まらないんだけど」
隆が言うと、
「はい」
ルリ子も、マリオネットに乗り移ってキャビンの中に入った。

洋子もマリオネットに乗り移った。
「美幸ちゃん、大丈夫?」
洋子は、キャビンには入らずに、後部デッキのステアリングを握っている美幸のところに行った。
「お願い、ステアリング」
美幸に言われて、洋子がマリオネットのステアリングを持った。ステアリングを洋子に渡して、解放された美幸は、ほっとした表情だった。
「どうしたの?」
麻美は、マリオネットの船体がラッコから離れないように、船体を押さえながら、美幸に声をかけた。
「ずっと、中野さんとか皆、中でエンジンを見ているから、ずっと私がこれ持っていたんだもの」
美幸は、泣きそうな表情で、麻美に訴えた。
「それは、こわかったね」
麻美は、美幸に答えた。本当は、美幸の頭を撫でてあげたかったのだが、マリオネットの船体を押さえているので、美幸の頭まで手が届かなかった。
「大丈夫だよ」
洋子が、麻美の代わりに、ステアリングを握っている手と反対の手で、美幸の頭を撫でた。

「いつも、普通にステアリングで舵は取っていたよね」
洋子が美幸に聞くと、
「そうなんだけど、風は無いし、エンジンは停まっているから、ゆらゆらしているだけで、まっすぐになってくれないんだもん」
「そうか、それは不安になるよね」
麻美が答えた。
「こんな海の真ん中だものね」
佳代が言った。
「良かった。皆、来てくれて」
美幸は、洋子の胸にもたれかかって、ずっと我慢してきた涙が思わず出て、泣いてしまった。
洋子は、そんな美幸を片手で抱きかかえて撫でてあげていた。

マリオネット発見!

斎藤智

「そろそろ近くかもしれない」
ナビを見ていたルリ子が言った。
「そうなのか」
隆は、ルリ子の言葉に反応した。
結局、お昼を食べ終わったら昼寝すると言っていた隆だったが、昼寝していなかった。
「私が眠くなってきちゃった」
食べ終わった後、パイロットハウスのサロンでぽけっとお話をしていた麻美が言って、皆は笑い出した。
「さて、そろそろなのかな」
隆は、ルリ子の覗いているナビの画面を眺めてから、デッキに出た。洋子と香織、雪も一緒に出てきて、三人は周りの海面を見渡した。
「さて、お皿を片付けようかな」
お昼を食べ終わった後のお皿がテーブルに出しっぱなしだったので、麻美はキッチンに片付けはじめた。佳代も、麻美の食器の片づけを手伝った。ルリ子も画面と外の様子を確認しながら、少しだけお皿の移動を手伝った。
「ルリちゃんはいいよ。ナビとステアリングをやっていて」
麻美がルリ子に言った。

「どこか、この辺にいるのだろうね」
隆は、海面を眺めながら言った。もう夕方近くになってきて、暗くなりはじめているので、海が探しづらかった。
「老眼が始まっているから、探しづらいよ」
隆より少し年上で、麻美と同い年の雪が言った。
「麻美ちゃんも探してたら、麻美ちゃんも同じこと言いそう」
まだ老眼からほど遠い香織が笑った。
「そうだ、佳代のほうが見つけられるだろう」
「そうだよね、佳代ちゃん、視力2.0だものね」
洋子も言った。
「佳代、いる?」
隆は、いったんキャビンの中に入った。
「はい」
「佳代さ、目が良いんだから探すの手伝ってよ」
隆は、佳代にお願いした。
「ああ、佳代ちゃん、探してあげて」
麻美は、お皿を洗いながら言った。
佳代は隆といっしょに表に出た。佳代の代わりに、キャビンに入ってきた香織が、麻美のお皿洗いを手伝っている。

「そっち?」
隆は、雪たちの見ている方角と別の方角を見始めた佳代に言った。
「だって、ルリちゃんのナビ見たから、こっちかなって思ったんだけど・・」
「そうなのか?」
雪と洋子は、逆の方向を見渡していた。と、
「あ、あった!」
佳代は、遠くを指さして叫んだ。
「え、もう見つかったの?」
「あそこ!」
佳代は、雪と洋子の二人にあそこに浮かんでいるじゃん、とばかりに指さしている。
「老眼進んだのかな?ぜんぜんわからない」
雪が答えた。
「私も、子どもの頃からずっとチョー近眼だから」
洋子もぜんぜんわからずにいた。
「あそこ、あそこにぷかぷか浮かんでいるよ」
二人がぜんぜん見えないでいるので、佳代は隆に指さしている。
「どこ、どこ?」
隆は、佳代の側に寄って来て、腰をかがめて背の低い佳代の目線で立ち、佳代の指さす方向を必死で眺めた。
「あれ」
「あれね、え、あれか!」
隆は、マストのステンレスが夕日の銀色に光っているのだろうか、何かきらりと海面上で光るものを見つけて叫んだ。
「ルリちゃん、隆さんたちが見ている方向に進んで」
雪と洋子が、パイロットハウスでステアリングを握っているルリ子に言った。
ルリ子は、隆と佳代の指さしている方向に向かって、船を進めた。
「あ、マリオネットじゃん」
船がだんだんと近づいてくるにつれ、隆にも、マリオネットの姿が次第にはっきり見えてきた。

大海のマリオネット探し

斎藤智

「予定変更なんだ」
外でステアリングを握っていて、パイロットハウスの会話を聞いていない香織が隆に言った。
「うん、せっかくの香織にとっての初めての伊豆七島、島だったのにな」
隆は、香織にすまなそうに言った。
「ううん。島は、またそのうちに行けるでしょう?」
「ああ」
隆は、香織に答えた。
「またすぐに行けるわよ!うちのラッコに乗っている限りは」
麻美が言った。
「そうだよね!私ずっとラッコに乗り続けるつもりだし」
香織は、麻美に言われて笑顔で答えた。

香織は、大島の突端を交わして、マリオネットのいる辺りを目指して、必死でステアリングを、舵を取っていた。
「こんな広い海のど真ん中で、うまくマリオネットと会えるのかな?」
香織は、ステアリングを握りながら、ふと疑問を質問にして隆に聞いた。
「それは大丈夫!向こうでちゃんとナビで確認しているから」
隆は、パイロットハウスの天井から顔を出しているルリ子を見ながら答えた。
「あ、そうか。ルリちゃんがマリオネットの位置とかも知っているんだ」
「うん。ベテランのナビゲーターだからね」
隆は、香織に笑顔で答えた。
ルリ子は、自分のことを話題にされている気がして、後ろを振り返った。
「な、ベテランナビゲーターさん」
隆は、振り向いたルリ子に言った。ルリ子は苦笑していた。
「マリオネットさんが見つかる前に、お昼ごはんにしちゃおうか」
麻美が言うと、隆は頷いた。
「佳代ちゃん、手伝って」
麻美は、佳代を連れて、キャビンの中に入った。二人は、パイロットハウス前面のキッチンに立った。
「お昼ごはん?私も作るの手伝うよ」
ルリ子は、パイロットハウスに座りながら、キッチンでお鍋とかを出す麻美の姿が見えて、麻美に言った。
「大丈夫よ、ベテランナビゲーターさんは、マリオネットのチェックしていて」
麻美は、ルリ子に言った。
「ベテランナビゲーターさんって、隆さんが言いだしたんでしょ?」
「うん、そうよ」
二人は、そう言って笑いあった。

今日のお昼は、そうめんだ。
「食べるのここでいいよね」
麻美は、パイロットハウスのサロンのテーブルにそうめんを出しながら言った。
「ルリちゃんも、ナビを見ながら食べられるだろうし」
テーブルの上に、そうめん以外のサラダやなにかも並べていく。
並べ終わると、
「ごはんだよ」
麻美が言って、それをパイロットハウスから顔を出しているルリ子が、デッキに出ている皆に伝言して、皆はパイロットハウスの中に集まってきた。
「そうめんか」
隆は、テーブルの上の料理を見て言った。
「さっぱりしたのが良かったから、ちょうど良かったね」
洋子は、さっき話しているときに、隆が、あんまりこってりしたものよりも、さっぱりしたものが食べたいと言っていたのを思い出して、隆に言った。
「ああ」
隆は、席に着きながら言った。
「食べ終わったら、眠くなりそうだな」
隆は、食べながら言った。
「食べ終わったら、お昼寝してもいいよ。マリオネットが見つかったら起こしてあげるから」
麻美は、隆に言った。
「別に起こしてくれなくても、ルリちゃんがいたら大丈夫じゃないの」
隆は、麻美に答えた。
「また、すぐにさぼろうとするんだから」
麻美は、隆を見て苦笑した。食事していた皆は大笑いになった。

相模湾へ

斎藤智

「電話で説明だけなので、よくわからないけど」
ルリ子は、隆に言った。
「どこかエンジンの部品が壊れているみたいで、エンジンが動かないって。エンジンをスタートするときの感じだと、バッテリーも動作していないようで、セルモーターが回らない感じなんだけど・・」
「じゃ、バッテリーが上がったとかじゃないの?」
「わからない。でも、最初に動かないってなったときが、ずっとそれまで横浜マリーナを出航してから、今までエンジンを付けっぱなしで機帆走してたんだって。それで、急にエンジンがヒューンって音がして停まってしまって、それからエンジン音が消えたから、周りがすごく静かになったんだって。それから、もう一回、エンジンを掛けようとしたけど掛からないって」
「それじゃ、バッテリーだけが原因って可能性も無さそうだな」
隆は、ルリ子から聞いて答えた。

「ここにいるの?」
麻美は、ナビの相模湾の真ん中辺りの赤く光っているとこを指さして、佳代に聞いた。佳代は、麻美に首を縦に振って答えた。
「こんなところで風も無く、エンジンが掛からずに海に浮かんでたら、不安だろうね」
麻美は、ヨットのことはよくわからないが、マリオネットが大海の真ん中でプカリプカリしているところを想像して、中野さんや美幸が不安そうだろうなと心配していた。
隆とルリ子、雪が相談していた。どうするか結論が出そうもない。
「ここで話していてもしょうがないから、迎えに行ってあげましょうよ」
麻美は、三人に言った。
「麻美はさ、簡単に迎えに行けって言うけど、距離も離れているし、けっこう大変だぞ」
隆は答えた。
「ヨットの機走じゃスピードも出ないしね」
「いくら、ラッコのエンジンはモーターセーラーで普通のヨットよりパワフルなエンジン載せているっていっても、所詮はヨットだものな」
「パワーボートとかがあればな」
「すぐに迎えに行ってあげられるよね」
ルリ子が言った。
「ここからだとシーボニアあるいは三崎マリーンが近いかな?」
隆は、ナビの画面を見ながら答えた。
「そこまで引っ張るの?」
麻美が隆に聞いた。
「え、うちで?いや、三崎マリーンから救助のボート出してもらうとか」
「そんなことしてもらえるんだ?」
「まあ、お金は相当掛かるだろうけどな。それに保険とかいろいろ絡んでくるかも・・」
隆は答えた。皆は、どう結論していいか、しばらく考え込んでしまった。

「やっぱり迎えに行きましょう」
麻美が、最初に口を開いた。
「そんなに大変なことさせないでも、私たちが、横浜マリーナの同じヨットが、ここにいるんだから、私たちが行って助けてあげれば良いじゃない!多少遠くても仕方ないわよ」
麻美が言った。
「だから、麻美は簡単に言うけど、いったん相模湾に向かったら、ラッコの夏のクルージングの予定だって、これ全部狂ってくるぞ。相模湾行って、三崎辺りに引っ張ってたとして、その後、島までラッコも行けなくなるかもしれない」
隆は答えた。
「香織ちゃんも皆だって、伊豆七島の島を楽しみに来てるだろ」
「いいよ、島に行けなくても。迎えに行ってあげましょう」
香織にステアリングを代わってもらって、キャビンの中に入ってきた洋子が答えた。
「え?」
雪が振り向いて、洋子のほうを見た。
「だって、このまま仲間のマリオネットを見捨てて、島まで行っても、なんか楽しくないよ」
洋子が言った。
「それより、島に行けなくなっても、助けに行って、それから三崎でも近場でもどこでも行って、クルージング続けるほうが良いんじゃない?」
「そうでしょう、洋子ちゃん!私もそれが言いたかったのよ」
麻美が、洋子に賛成した。
「ね、隆。迎えに行ってあげましょう」
麻美が、再度、隆に聞いた。
「いや、皆がそれでも良いなら、俺はいいよ」
皆は、黙って隆に頷いた。
「よし、決まり!私、中野さんに迎えに行くって電話するよ」
麻美が言った。
「香織、予定変更!こっちに船を向けて」
隆は、パイロットハウス天井から顔を出すと、ステアリングを握っている香織に、相模湾のほうを指さしながら指示を出した。

救助船

斎藤智

「だって、風が無くて相模湾の真ん中で動けないんだよ」
麻美は、隆に言った。
「そんなこと言われても、こちらだって大島の沖合で風は無いんだけど」
隆は、麻美に言った。
「動けなくはないけどね」
ステアリングを握っていた洋子が答えた。
「で、どうしろって言っているの?」
「え、だから、助けに行ってあげたら?」
隆に聞かれて、麻美は答えた。
「それは無理でしょう。こっちは大島の沖合にいて、向こうは相模湾の真ん中にいるんだよ」
「無理なの?」
「ぜんぜん位置が違うもの」
隆や雪は、麻美と一緒にキャビンの中に入った。キャビンの中では、ルリ子が中野さんと電話をしながら、ナビにマリオネットの位置を入れていた。
「どうなの?」
隆は、ルリ子に聞いた。
ルリ子は、電話をしていて隆のほうには答えられない。
隆は、ルリ子の入力したナビの画面を覗き込んだ。大島の沖合に、ラッコの進んできた航路が線になって記入されていた。その別の場所、相模湾の中央よりは少し三崎辺りに赤く光っている場所があった。
「マリオネットはここなの?」
隆が、ルリ子に聞くと、ルリ子はその赤いところを指さしながら頷いた。
「そんなに遠くないじゃない」
ぜんぜんわからない麻美が言った。
「けっこうあるよ」
佳代が、ナビのチャートを覗きながら、麻美に言った。
「そうなの?」
麻美は、佳代のことを両手で抱えながら答えた。
「行くとしたら、大島をいったん岡田港を抜けて、かわしてからグルッと回らなければならないよね」
雪も、麻美に説明した。
「そうか、けっこう大変?」
麻美は、雪に聞いた。

「はい、麻美さんに代わりますね」
麻美は、ルリ子から電話を手渡された。
「あ、もしもし。ええ、そうですね」
麻美は、電話に出て中野さんと話している。
「ええ、ルリちゃんがそちらの位置とかナビに入力したみたいなので、ちょっと隆とも相談して、また電話しますね。少し待ってくださいね」
麻美は、電話を切った。
「で、ルリちゃん。マリオネットの様子はどうなの?」
麻美が電話を終えて、隆がルリ子にマリオネットの状況を聞いた。

目的地変更

斎藤智

遅めの朝ごはんを食べた後、皆は暑いデッキの日差しの当たらない影を見つけて、そこでのんびりしていた。ステアリングを握っている佳代の上には、大きなビーチパラソルが開かれていた。
「気持ちいい~」
夏のクルージングが初めての香織は、日陰のデッキチェアに寝転びながら、言った。
「夏のクルージングは、このまったり感がいいよな」
「うん」
隆と洋子が言った。
「麻美さんも、ここ来て、一緒にゴロンしよう」
佳代の横にいた麻美は、香織に誘われて、デッキチェアの香織の横に寝転がった。
「ああ~、ここじゃ、すぐに寝ちゃいそう」
一瞬横になった麻美は、すぐに体を起こした。
「別に寝たっていいじゃん」
「うん、そうよ」
洋子と隆に言われたが、
「今、寝たら夜に寝られなくなちゃうよ」
麻美は、返事した。
「私、お昼寝した日も、夜もぐっすり寝れる」
「それは若いからよ」
麻美は言った。
「確かに、今回のクルージングはマリオネットが一緒じゃないから夜寝れるものな」
「そうか、中野さんとか一緒だと、麻美ちゃんずっとお酒につき合わされて寝れないもんね」
雪が奥から顔を上げて言った。

しばらく皆がまったりしていると、麻美の電話がキャビンで鳴った。
「麻美ちゃん、電話!」
パイロットハウスでナビを見ていたルリ子が、パイロットハウスの屋根から顔を出して、麻美を呼んだ。麻美は、起き上がってキャビンに入る。
「はい、もしもし」
麻美は、電話を探して出た。
「あ、こんにちは」
麻美は、電話の相手と話している。
「ぜんぜん掛からないのですか?」
麻美は、電話の相手に何かを相談されているようだ。
「ええ、そうなんですか。ああ、部品のこととか言われても、私じゃ、よくわからないので」
麻美は、言った。
「ルリちゃんに代わりますね」
隣りにいたルリ子は、いきなり自分の名前を呼ばれて驚いていた。
「ルリちゃん、中野さんなの。ちょっと代わってもらえない」
麻美に、電話を手渡されて、ルリ子は電話に出た。
麻美は、ルリ子に電話を渡すと、表の隆のところに行った。
「中野さんの話だと、相模湾の真ん中でエンジンが完全ストップにしちゃって、風も無くて動かなくて、ゆらゆらしているんだって」
隆に報告した。
「そんなこと言われても、ぜんぜん逆方向だし・・」
隆は、麻美から聞いて、頭をかいていた。

デッキで朝ごはん

斎藤智

「さあ、朝ごはんですよ。起きて下さい」
麻美は、寝ている隆のタオルケットをはがしながら言った。
「まだ眠いよ」
「もう朝の11時ですよ」
背の高い麻美は、隆のことをベッドから起き上がらせると着替えさせた。

「ああ~、まだ眠いよ」
隆は、眠そうな目でキャビンの外に出てきた。デッキでは、皆がテーブルに朝ごはんを広げて食べはじめていた。
「はーい、隆さんのヨーグルト」
洋子が、隆の分のヨーグルトを手渡した。
「ありがとう」
隆は、洋子からヨーグルトを受け取って食べ始めた。
「麻美ってひどいんだよ。タオルケットをバンって引きはがして起こすんだから」
隆は、洋子に言った。
「主婦、失格だよね」
隆が言うと、
「だって、主婦としてはいつまでも朝ごはんの片付けできなくなっちゃうものね」
「そうよね」
雪に言ってもらえて、嬉しそうに麻美が答えた。
それを聞いて、皆は大笑いになった。

「で、どこらへんまで行った?大島はだいぶ真横になってきたね」
隆は、ステアリングを握っている佳代に聞いた。
「筆島があっちに小さく見えてきたの」
佳代は、遠くに小さく見える筆島を指さして言った。
「あれ、筆島なんだ。位置と言われてみれば、あれが筆島だってわかるけど。俺には点にしか見えないな」
隆は、佳代の指さす先を眺めながら言った。
「佳代ちゃんは、驚異の視力、両目とも2.0だものね」
麻美が答えた。
「麻美は見えるの?」
「見えるわけないじゃない。近視に、最近では少し老眼も入ってきているのに」
麻美は、苦笑した。
「っていうか、なんかいつもラットを見る度に、佳代ばかりステアリング握らせられてないか」
隆が佳代を見て言った。
「そんなことないよね。さっきまで香織ちゃん持ってたし。その前は洋子ちゃんも持ってたし」
「でも、佳代ちゃんが一番握っている時間は長いかもね」
洋子が答えた。
「一番年下だから、お姉さまたちに握らされているの?」
隆は、佳代の顔をのぞき込んで聞いた。
「ううん」
佳代は、首を横に振った。
「佳代ちゃん、ステアリング好きなのよね」
麻美が言うと、佳代は大きく頷いた。

ウォッチ明け

斎藤智

「隆だけ起きてこないね」
麻美は言った。
ウォッチ明け、キャビンの中で寝ていた皆も、起きてきていた。なのに、隆一人だけ、まだ起きてきていなかった。
「どうしたんだろう?体の具合でも悪いのかな?」
麻美は、少し心配そうに言った。
「昨日、遅かったから、まだ寝ているだけじゃないのかな?」
洋子が言った。
「それだったら、別に良いんだけどね」
麻美は、キャビンの中に入り、後部のオーナーズルームに入った。中では、隆が頭からタオルケットをかぶって寝ていた。
「どうしたの?朝だよ」
麻美は、タオルケットの中を覗き込んで、声をかけた。
「う、うん」
隆は、眠そうにしていて、起きる様子はなかった。
「朝ですよ」
「それがなにか?」
「え?皆、もう起きてますよ」
麻美は、隆に言った。
「なんか具合が悪いの?」
麻美は、心配そうに隆の額に自分の手を当てた。
「別に。寝ているんだから、ほおっておいてよ」
麻美は心配して、隆の額に手を当てていたのに、隆は、麻美の手を払いのけて、またタオルケットをかぶり、寝てしまった。
「眠いだけなのね?」
麻美は、そんな隆の額にもう一度、自分の手を当てて熱がないことを確認してから言った。
「じゃ、私は、皆とキャビンの外に出ているよ」
麻美が言って、オーナーズルームから出ようとしていると、
「何か航海で問題とか起きているの?」
「ううん。大丈夫よ」
麻美は答えた。
「今はね、洋子ちゃんがステアリングを握っていたかな」
「そうなんだ。問題ないなら、じゃあ、寝てる」
隆は、タオルケットをかぶったまま寝てしまった。
「はいはい、おやすみなさい」
麻美は、部屋を出ていった。

「洋子ちゃんの言う通り、ただ眠いだけだった」
麻美は笑顔で、キャビンから出てきて洋子に報告した。
「そうなんだ。良かった」
洋子は答えた。
「雪ちゃんも寝ちゃったよ」
佳代が、デッキでデッキチェアを横にして寝ている雪を指さして言った。
「そうよね、皆、よく寝ていないんだもんね。眠いよね」
麻美は、寝ている雪を見ながら言った。